だらだらと話していたせいか、昇降口に着く頃には、仄暗いオレンジは藤色へと色を変えていた。




「…………」

…いない。



そりゃそうだ。
もう委員の仕事が終わってから1時間も経ってるんだから。

誰も待ってるわけなんてない。



ない、のに。


彼は待っていてくれるんじゃないかな、なんて、馬鹿みたい。

彼は後輩で、あたしは先輩で。


ただ普通の人より少し、興味を持たれているだけで。

こんな時間まで待っていてくれるような義理なんてないのに。



開けた靴箱が、重力に従ってバンッと寂しげに響く。


「真琴は嘘つきだね」

「……なに、いきなり」

「ほんとは、新堂くんじゃないくせに。」


理彩がニヤリと笑みを浮かべる。


新堂くんじゃないって、なにが?

一緒に帰りたい人?
それとも、


あたしの心にいる人のこと……??


「…知らない」



「なんて往生際の悪い……」


隣で呟かれた言葉には気づかないふりをして、ローファーに足を通して学校を出る。


すっかり冷えた秋の空気に、あたしのため息が溶け込む。




…たった1回会わなかっただけなのに、こんなに埋め尽くされてるのは、どうしてなんだろう。


なんて。

まだ、気付きたくもないけど。