ぼそりと呟くと、理彩が楽しげに赤色を滑らせる。
「なーに言ってんの、バカ真琴。
こないだの土曜日、私のパスタを常連くんに取られたこと、忘れてないんだからね?」
「それは別にただ偶々その時興味を持ってたのがあたしだったからってだけで、
八神くんって気まぐれだし、どうせすぐ別の人に興味持つようになるでしょ」
そこ、はみ出てる、と指摘しつつ刷毛を筆に持ち替えると、理彩は「もー、真琴細かい!」なんてぼやきながらも白い絵の具を筆に乗せた。
「でもまあ、あれだね。
真琴、何にもわかってないよね」
「えっ」
「だってそうでしょ?
ってこの話先週もしたし!!真琴、本当に彼のこと考えたの??!」
「いやだから考えるもなにも、八神くんはあたしに面白そうな先輩以上の気持ちなんて抱いてないから」
理彩ったらなんでいつもそうやって『八神くんがあたしのこと好き』みたいに解釈するんだろう。
八神くんにとってあたしは「好き」なんて冗談も軽々しく言えるほど、恋愛対象外なのに。
「…もう、真琴のあほ。」
俯いて文字に色を乗せることに集中するあたしに、理彩は小さく呟いて、
はみ出た赤を、白く塗りつぶした。



