「あ、そういえば先輩。駅前のパスタ屋で新作出たそうですよ」

「なんで知ってんの、女子か!!」



いつものような会話をしながら、駅までの道を歩く。

あたし達は多分、想いが通じあったからといって何かが大きく変わるわけでもなくて、でも、それが物足りないわけでもなくて。


だって、ほら。


「!!ちょ、っと八神くん…!」

「綾人って呼んでくれないと離しませーん」


唐突に繋がれた手に視線を落とすと、八神くんはまるで聞こえないとでも言うように腕を振る。


「流石に恥ずかしいから…!!」


手が、熱い。

ブンブンと手を振ると、八神くんは悪戯な笑顔で「ほら、呼んでください」と告げる。



…本当に、八神くんは、ずるい。


「…綾人、くん」

「んー、及第点です。今のところは」

「い、今のところはってなに……っん」


反論しようと口を開いて向き直った瞬間、柔らかいものが唇に触れて。

一瞬陰った視界が、また明るくなっていく。

なにをされたか、なんて、頭が全然ついてこなくて。



「やややや八神くん、ここ公衆の面前なんだけど!!!?!?」
「えー、嫌ですか?」

「嫌とか、そういう問題ではなくて!」


パクパクと口を動かしているあたしの顔は絶対に赤くて。

それを見た八神くんが、また笑う。



「でも、好きでしょ?俺のこと」

「自信家黙って」

「本音は?」

「…………好きだけど、文句ある?」



不貞腐れて、唇を尖らせる。
それを聞いた八神くんが嬉しそうに笑って、またあたしにキスを落とした。



「俺も大好きです。この先も、ずっと」

「……!」



ーーああ、やっぱり、君には敵わない。


明日も明後日も、この先、ずっと。





あたしのこの心は、八神くんのモノなんだろう。







~ fin.