チラ、と顔を盗み見ると、それに気づいた八神くんがクスリと口角を上げる。

「ーーーー」


……あぁ、違う。
これは…面白がってる、顔だ。


なんだ。少しでも期待した自分が恥ずかしい。バカみたい。
八神くんは、あたしに恋愛対象としての興味はない。
彼は歳下で、あたしは歳上で。
恋だの愛だの、ありえない。

わかってた…はずだったのに。


高揚していた気持ちが、一気に冷める。


「…別に、なにもないわ」

ふい、と視線を逸らすと、八神くんは「…そう、ですか」とあたしから体を離した。


ほら、やっぱり。

無性にイライラして、そのまま彼を視界から消す。

これくらい、してもいいでしょ?
彼は全てを秘密にしてるんだから、あたしが一つ、彼に秘密を作ったって、バチなんて当たらない。


図書室を出て行く八神くんの後ろ姿に「…言った方が、よかったんじゃないかな?」なんてすぐに後悔の念が湧いてくるけど、ブンブンと首を振って委員の出席表の柊と新堂の位置に丸をつける。

これで、よかったんだよ。彼が知ったところで、何かするとは思えないし。


…なんて。
本当は、引き止めてほしかったくせに。


あたしの、嘘つき。