今、幕があがった。

舞台は暗転。

舞台からみる客席もまっ暗で、見られているという気がしない。


桃惟が、向こう側のどこかにいる。

どこで見守ってくれている。

そう思うと、勇気がわいてきた。



『アリスは、川辺でお姉さんの隣に座って、とっても退屈していました――』 


冒頭のナレーションが、流れ始める。

すらすらと、ちょうど良い速さで。

放送部の子だけあって、上手い。


ナレーションが読み終えられた、次の瞬間。

自分にスポットライトが浴びせられ、パッと舞台が明るくなった。


たった今から――わたしは、アリスだ。

好奇心旺盛な女の子。


間もなくやってくる白いウサギを追いかけて、冒険の旅に出る――。