「先輩に言われたのか? もう会えないって」


頭を横に振る。

お姉ちゃんに、そう約束したから。


柳くんと同じマンションに先輩が住んでいるだなんて、なんの因果だろうか。


「それでいいのか?」

「……いいの」

「好きなんだろ?」

「好きだよ」

「引き返せないくらい」

「……!!」

「あのな、茉帆。俺の口からこんなこと、言いたくないんだけど」

「……?」

「お前と先輩のキス、どうみても、恋人同士のキスだった」

「え……」


そんなわけない。

あのキスに、特別な意味なんてない。

わたしが可哀想だったから、先輩は、慰めてくれたんだ。


「あの人のお前に対しての恋愛感情、ゼロではないと思うよ」


そういう柳くんの声は、とても、寂しげだった。

冗談をいっているとは思えない。


「そんなこと……」


だって、先輩は……お姉ちゃんのことが……。


「会えって」

「……会えない。わたしは、先輩に会えないの」

「なら、諦めるんだな?」


「え?」


ドサッという音とともに、重くのしかかる感覚。


さっき座っていたソファに、仰向けに横たわる。

すぐ目の前には、柳くんの顔。


柳くんに――押し倒された。