わからない。

理性がゆらぐとか、そういうの、わからない。


「茉帆は……ほんと無知だな」

「身近に男の子がいなかったからね」

「にしても、知らなさすぎ。まぁ……そこに、そそられるんだけど」

「そっ……」

「テレビつけろよ」

「あ、うん」


お兄ちゃんでもいれば。

1度でも彼氏ができたことあれば、もっと理解できていただろうか。


男心が。

柳くんの心が。

水上先輩の、心が。


「あー、渡したくねーな……」


わたしは、このときの柳くんの言葉の意味も。

柳くんの気持ちも、少しも理解していなかった。


でも、柳くんの想いは、伝わってきた。


柳くんが、真剣にわたしを想ってくれていることが、痛いくらいに、伝わってきたんだ。



「茉帆」

「ん?」リモコンで電源を入れたテレビ画面には、見たことあるようなないような外国人の俳優さんがバストアップでうつっていた。

どうやら洋画のシリアスなシーンで、背広姿の中年男性が、眉間にシワを寄せてなにかを語っている。