そっと本を閉じて、図書室を出た。
階段を降りて中庭へと急ぐ。

階段を降りる途中、何度も躓きそうになりながらも、この足を止めることはできなかった。

毎日、ここに当たり前のようにある枝垂桜の下で足を止めた。


みんなにとっては当たり前の景色だけど、ここは私たちにとって特別な場所だった。


ここで、私たちはあの日…

スカートの裾を掴んだまま、立ち尽くしていると、

「なずな?」


誰かが私の名前を呼んだ。

顔を上げると海晴くんが立っていた。


「海晴くん。私…」


海晴くんの方へ歩こうとした時、


「全部、思い出した?」


海晴くんは寂しげな顔で、私を見た。

その後、何か言いたげで、でも言葉を飲み込んで気まずそうな顔してる。


「うん…」

私の返事を聞いて小さくため息をつくと、

「そっか」

と、小さな声。


海晴くんはそのまま何も言わない。

私も、海晴くんの様子が変だと感じ、何も言えなかった。


でも、海晴くんのこの表情といい、最近の様子からして…

「もしかして、思い出してた?」


海晴くんは小さく頷いた。


「途中から…」


やっぱり…

私は思わず大きな声になる。


「どうして教えてくれなかったの?」


一緒に、ずっと悩んで来たのに。


私の言葉に責められているように顔を少し伏せて…