「あ、なんかぼんやりしちゃってた」


笑うと、少しホッとした顔で、

「帰ろっか」

海晴くんが当たり前のように言ったその言葉に少し嬉しくなる。

「うん」

ピアノの椅子から立ち上がった。


「でも、どうしてここが?」

尋ねる私に、


「靴があったけど教室にいなかったから。適当にブラブラしてたら見つけたんだよ」


海晴くんがそう言い終わらないぐらいに、窓から強い風が吹き付けた。


音楽室の中、楽譜が舞った。

スローモーションのようにも見える不思議な光景だった。


「窓、閉めよう」

慌てて二人で窓を閉めて、散乱した楽譜を拾い集めた。


「あ…」

楽譜に紛れて、押し花で作ったしおりが落ちていた。


「これ、なずな?」

海晴くんの言葉にドキッとなる。

「あ、ごめん。呼び捨てしたみたいになったね」

なんとなく、2人黙った。