「なずな?」


うちの玄関に立っている、同い年ぐらいの女の子がベルを鳴らした。


僕は玄関に向かって猛ダッシュした。


あの時代の温かい木の温もりとは程遠い、コンクリートの冷たい音が響く。


「今、ベル鳴った?」


母親の甲高い声が響く。


母より早く玄関にたどり着いた。
勢いよくドアを開けると、女の子は驚いた顔で僕を見た。


「あ、あの。月丘桜樹さんのお宅でしょうか?」


その女の子は、なずなによく似ていて、でも、髪の毛はくせ毛のなずなとは違い、まっすぐで黒い。


でも、顔立ちはなずなそのものだ。

こんなことがあるのか?


「あの...」

あまりに見過ぎてしまって女の子は、少し顔が赤くなっていた。


「あ、ごめん」

なぜか、僕も恥ずかしくなる。


「月丘桜樹は、僕だけど」

事態が読めないけど、僕はとりあえずこの女の子の話を聞きたい、そう思った。


「ああ、よかった…噂で名前を聞いたので、もしかしたらと思って。来て良かった…」


ホッとしたような顔で、僕をもう一度見て、


「見てもらいたいものがあるんですけど」


そう言った女の子の手元を見ると、かなり年季の入った箱を持っている。

玄関先でっていうのもなぁ。


中入るかな?

男だから警戒されるかな…


恐る恐る、

「あの、とりあえず…中にどうぞ。母親もいるので、心配いらないです」


ドアを開けると、


「はい。お邪魔します」

女の子は躊躇することなく中に入った。