「ツキオカオウジ…」

笹中さんは、自分の口で繰り返した。

「なんか書くものある?」


尋ねると、胸ポケットからボールペンが出てきた。


受け取ると、


「手、出して」

笹中さんが差し出した手に、


『月丘桜樹』

そう書いた。


「桜のように、儚げで優しい人だったね」


そう言って、ポロポロ涙をこぼした。


「ありがとう、私、思い出せてよかった。これで、前に進めそうな気がする」

笑った顔が、とても可愛く感じた。


「うん、私も…今進んでる途中なの」

濡れた前髪を少し手で触れると、


「うん、行ってらっしゃい」


笹中さんの言葉に背中を押されるかのように、走り出した。