煮込んでいる間にケイちゃんもダイニングの方にやってきたから身構えるとまたクククッと笑われた。

 お色気攻撃は終わったらしく何やら難しい本を開いている。

 私はふぅと息をつくとケイちゃんに質問した。

「ねぇ。ケイちゃん?」

「ん?」

「どうしてそんなに一生懸命勉強してるの?パパに言われたから?」

 なんの本なのか分からないくらい難しそうな本を手にケイちゃんは目だけこちらに向けた。

「確かに喜一さんに言われたからだけど…。納得できないことはいくら喜一さんに言われても従わないよ。
 ココも言われてるだろ?賢さは他人から奪われない。知識は誰にも奪われない財産だ。って。」

 それはパパがよく言う言葉だ。

「うん。言われてる。でもそれを体現できるのはすごいと思う。勉強なんてやった方がいいのは分かるよ。でも嫌になっちゃうものじゃないのかな。」

 しばらく黙ったケイちゃんは本に視線を落として、気の無い返事をされた。

「ココは幸せ者だからね。俺は手に入れれる物は手に入れておきたい。」

 棘たっぷりの言葉を言われてムムムと思うのに、私が今までパパを独占してたと思うと言い返せない。

 でも、でも、違う!

「ケイちゃんは幸せ者じゃないの?今は…つらい?」

 再びの沈黙の後に久しぶりに見たケイちゃんの鋭い目に射竦められた。

 そんなに言われたくなかったんだ。
きっと特に私に。

 悲しい気持ちでいると頭をグリグリされた。
 それはなんだかとても寂しかった。

「ココのせいじゃない。俺のせいだ。」

 キッチンに行ってしまったケイちゃんは実際の距離よりもものすごく遠くへ行ってしまった気がした。