「ちょっと夕飯には早いけど俺のバイト先に行かないか?美味いんだ。」

 ケイちゃんがバイトしてるのを初めて知って驚いたけど、料理人志望だしあの腕前だしね。と、納得して連れていってもらった。

 着いたのは可愛いイタリアンのお店。

 ケイちゃんに似合うような似合わないような気もするけど慣れた様子で店内に入っていく。

「いらっしゃ…。なんだケイか!」

 ギャルソンの格好がよく似合う好青年がケイちゃんに親しげに話しかける。

「で、こっちの可愛い子は?ケイが女の子連れてくるなんて珍しいな。」

 え?取っ替え引っ替え違う子を連れてくるんじゃなくて?

 私の疑問は置き去りに二人の会話は親しげに進んでいく。

「妹なんだ。」

「へ〜。ケイに妹がいたなんてな。オーナー中にいるぜ。カウンターに座れよ。」

 ケイちゃんの後についてカウンターに座っていると女の子がお水とおしぼりを持ってきてくれた。

「ケイくんに妹がいたなんて知らなかった。」

 上から下まで見られてる気がして落ち着かない。

「あぁ。葵か。サンキュ。」

 あおい…か。そうだよね。バイト先の仲間だもんね。

 遊び人って思ってるのに呼び捨てごときにショック受けるなんて変だよねぇ。あはは。

 自分で自分にツッコミを入れていると私にしか聞こえないボソッとした声がした。

「ま、妹じゃ付き合えないしね。」

 私にしか聞こえない小さな声になんだか嫌な気持ちになった。

 ケイちゃん…本気でモテてるんだなぁ。
妹の私にさえ敵意むき出し…。妹なのに…。妹かぁ。

 ケイちゃんは何やら楽しそうにキッチンの奥の人と話してる。

 その人がカウンター前にやってくるとまるで太陽がやってきたように華やかだった。

「やぁ。こんにちは。君がケイの愛しの人かい?
 3月は全部休みにしたいなんて言うもんだから…。
 しかしこんなに可愛い妹が帰ってきたならそりゃ予定も空けなくちゃな。」

 ワッハッハと豪快に笑う大柄なおじさんなのにやっぱり太陽みたいに温かい人だと思った。

 でもちょっと待って…。
3月は全部休みにって私の為に?

 ケイちゃんに質問したくてもオーナーが

「新メニューを考えたんだ。ちょっと味見をしてみてくれないか?」

とケイちゃんをキッチンの方へ誘っている。

ケイちゃんも「ゴメン。ちょっと待ってて」って。

 ポツンと残された私はケイちゃんの知らない顔を見て何故だか少し寂しくなっていた。