「あいつ何?」

 ケイちゃんが怪訝そうな声で質問する。

「翔くんは掛け算のかけるじゃなくて、走る方の駆けるが好きでね。体育の先生なの。すぐ近くの高校で教えてるよ。」

 私の説明にルーくんが不機嫌そうに付け加える。

「あんなんに教えられるなんて生徒が可哀想。」

「翔くんは熱血だから生徒さんにも人気があるらしいよ。ルーくんだって本当は翔くんのこと好きなくせに。」

 プイッとそっぽを向くルーくんはいじけた子どもみたいで可愛い。

「で、瑠羽斗は何やってんの?」

 もう上下関係を決めつけたようにケイちゃんは呼び捨てでルーくんに質問する。

 まぁルーくんは見るからに可愛い系の男の子だもんね。

「俺は…大学1年。」

 自分の方が確実に年下と分かったルーくんは不服そうな声を出してそっぽを向いたまま。

「なんだ。ガキじゃん。」

 あぁ。ケイちゃん…。
ルーくんにその言葉は禁句なのに。

 従兄弟の中で一番の年下でいつも可愛い可愛いで男扱いしてもらえなかったルーくん。

 割と根に持ってるみたいなんだよね。

「うるせー。心愛の兄ちゃんなんて心愛と結婚できないんだからな!年下でも従兄弟なら結婚できんだからな!」

 涙目で2階に上がっていってしまった。

 ありゃりゃ。
ちょっと可哀想な気もするけど…。

 ケイちゃんは気にする素ぶりもなく珈琲を美味しそうに口に運んでる。

「あらあら。うちの子たちを撃退しちゃうなんて頼もしいわ〜。これなら喜一さんも安心ね。」

 桜さんのズレた感想がなんとなくその場を和ませた。