薬が効いてきたのか急に楽になった体を起こそうとすると自由が効かない体半分を見る。

 心愛が自分の手を握って眠っていた。

「泣いたのか…。」

 頬にある涙の跡をそっとなぞると胸がズキッとする。

 お兄ちゃんで居ようと決めた。

 喜一さんに負けないくらいの溺愛系お兄ちゃん。それに必死でそうなろうとしていた。
 心愛が寂しく思わないようにと。

 大切な人達の大切な娘。だからこそお兄ちゃんとして守るのが自分の役目だと思っていた。
 それなのに…。

「逆に悲しませるようなことを…。」

 それでも…もう側にはいられない。ゴメンな。
 そう心の中でつぶやいた。

 目が覚める。また眠ってしまったのか…。そう思って目を開けると目の前に心愛がいた。
 何故か心愛がベッドに入って来ていた。

 またか…。そうため息をつきそうになると、すぐ近くの心愛と目があって、その真剣な眼差しが近づいてくる。

 え…。何、何が…。

 考える間も、避ける間もなく、柔らかい唇が重ねられた。

「な、何やって…。」

 胸に顔をうずめられて為す術もなく、されるがまま固まる。

 胸の中からかすれた声が聞こえた。

「ケイちゃんは真面目だから既成事実を作れって。」

「…はぁ?誰が。まさか喜一さん?」

「えっと…。みんな?」

 みんなってなんだよ…。

 そう憤慨する気持ちと、鼻をくすぐる心愛の髪、そして何より腕の中にある柔らかな温もりに混乱する。

 しかしよくよく冷静になると心愛はカタカタと震えていた。

 こいつ…。

 腕の中にいるのは紛れもなく、誰もがいい人で何もかもを信じている世間知らずでのんきなお姫様。
 だからこそできる行動に嫌気が差す。

 ギリッと奥歯を噛みしめると声を絞り出した。

「んっとにお姫様だな。そんな甘ったれた考えが出来なくなるようにしてやろうか。」

 人を信じれなくなるほどに酷いことをして壊して滅茶苦茶にしてやりたい。

 度々感じていた思いが溢れてきて乱暴に心愛へ覆い被さると腕を無理矢理につかんだ。
 心愛の顔を見もせずに顔を近づけた。