ビデオが再生される。

「心愛ちゃん。久しぶりね。」

 ママだ…。私の記憶の通り優しいママの笑顔と声に涙が溢れる。

「今日は心愛ちゃんにどうしても伝えたくてビデオを撮ってもらっています。
 だってパパじゃ心愛ちゃんが可愛い過ぎて佳喜(よしき)くんのことちゃんと伝えない心配があるんだもの。」

 よしき…。けいきじゃなくて?

 パパとケイちゃんの顔を交互に見ても何も言ってくれない。

 私はまた画面に視線を戻す。

「佳喜くんにはあれから会ったのかな?心愛ちゃんカフェで初めて佳喜くんに会った時にね。
 ずいぶん佳喜くんが気に入ったみたいで、自分からキスしたのよ。それはなんとなく覚えてるでしょ?」

 もしかして…。ケイちゃんが私の初恋の人?だってそんなこと一言も…。
 あぁ。でも初恋の人の話をケイちゃんにちゃんとしたことなかったかも。

「パパったらショック受けちゃってね。ママが、心愛ちゃんが結婚する相手に口にするキスは残しておいてってお願いしてたから。
 こんな小さい頃に結婚の相手を決めたのか!って。」

 ママは画面の中でクスクス笑っている。

 そんな理由でパパと口でのチューをしてなかったんだっけ?私が大人になって嫌がったからとかじゃなかったっけ?

 そう思いながらも画面の中のママに注目する。

「パパが意地になって聞くもんだから心愛ちゃんもヨシくんと結婚する!とか言ってたのよ。」

 ヨシくん…。そう名前はヨシくんだったかも。

「心愛ちゃんが結婚したいなら本当に家族になれるわ。
 それなら養子縁組みたいなことはやめようって。
 兄妹にしちゃったら心愛ちゃんは結婚できないもの。」

 そこまでにこやかに話していたママの顔が少し陰った。

「でもどっちが良かったのか分からないわ。佳喜くんは私達にどんどん遠慮していって。それに私の体調もよくない時も続いて。」

 寂しそうに顔を伏せたママが今にも消えてしまいそうに思えて、ギュッと胸が痛くなった。

「これはママの意地ね。心愛ちゃんが佳喜くんの側にいて欲しいの。心愛ちゃんなら分かるわよね?心愛ちゃんがよ。どうなるかなんて分からないけど…そうなって欲しいわ。」

 ここでビデオは終わった。


「そうだったな。もう佳喜(けいき)なんて呼ばなくて良かったな。佳喜(よしき)。」

「喜一さんまで。今さらその呼び方やめてくださいよ。」

 改まって佳喜(よしき)と呼ばれたケイちゃんは居心地が悪そうな顔をした。