玄関を開けると「おかえり」の声。
優しいケイちゃんの声。

 その声を聞いて涙が溢れそうになる。

 …どうしよう。どんな顔して会えば…。

 顔を合わせない方がいいと思うのに、ケイちゃんが玄関まで来てしまった。

 抱きしめられ「おかえり」を改めて言われる。そして頬に唇を寄せようと腕を緩められた。

 いつも通り。
 そう。いつも通りのお兄ちゃんとしてのケイちゃん。

 でも…。

「な、どうしたんだ。何、泣いて…。」

 本当はお兄ちゃんじゃないの?それなのにどうして一緒にいてくれるの?
 私は…私はあなたが大好きで…。

 全部を言ってしまいたいのに何も言えなくて、ただただ涙が頬を伝う。

 ケイちゃんはそっと抱き寄せると「ゴメン」ってつぶやいた。

 違う。昨日のケイちゃんの言葉に泣いてるんじゃないの。

 そう言いたいのにやっぱり何も言えなくて首を振ることしかできなかった。

「ゴメンな。お兄ちゃんだからずっとココの側にいるって言ったの俺なのにな。」

 昨日の言葉のせいで泣いていると思っているケイちゃんが謝ってくれる。
 私は首を振るしかなかった。

 お兄ちゃんだから側にいてくれるのなら、お兄ちゃんじゃなかったらどうなるの?

 お兄ちゃんじゃなかったら良かったのにって思ったこともあるくせに、今は不安でしかなかった。

 そして決意した。

 お兄ちゃんじゃないかもしれないって知ったことは隠し通そう。
 それを追求してその先にいいことがあるとは到底思えなかった。

 決意してギュッとケイちゃんに抱きついた。フッと息がもれた音ともに頭をグリグリされた。

「ったく誰かの泣き虫のせいで服が冷たいな。」

 棘がある言葉で言われても手を離せない。

 本当に不思議なくらいケイちゃんはいつも通りに戻っていた。

 いつも通りなのに、今、手を離してもどこにも行ったりしないよね?って不安になる。

「どうしたんだよ。ココは甘えっ子だよな。」

 呆れた…だけど優しい声。

 この人を…この優しさを失うくらいなら嘘を…何も知らないって突き通そう。

 もう一度ギュッとしがみつく。

 ケイちゃんがどこにもいかないように。いなくならないように。