月が本当に綺麗だ。

そんな綺麗な月が照らしてくれているこの地は、

血の海と死体で累々としているというのに。


「皆んな死んだ。死なせてしまった。お前だけは死なせない」


彼はそういうと、拳を強く握った。


「あの時の判断は、正しかった。お前じゃなければ、とっくの昔に全滅している。」


彼は俺の顔をみていた。


「あいつが隊長でよかった、ってのは皆んな口を揃えて言っていた。死ぬ時もだ。」


一人一人の顔を思い出す。


戦地にそのまま置いてきてしまった、かつての仲間たちの顔を。


「お前はあいつらを救ったんだ。胸を張れ!」


俺は、その胸をドンと叩いた。

「それにな、お前こそ生き延びなきゃならねぇんだよ馬鹿野郎。

ちゃんと帰って、お嬢さんを迎えに行ってあげねぇと」


彼の普段着を想像した。



きっと、シャツが似合う。

ボタンもキチンとはめて、花束なんか持っていそうだ。


そして、写真の女の人は、花をそっちのけで、お前に抱きつくだろう。


お似合いだ。

とてもお似合いだ。


彼女は、お前しか見せない笑顔をみせ、

肌のぬくもりを感じて
生を実感しながら、


明るい未来をつくるのだ。



式の時には、呼んでほしい。


盛り上げ役は任せろ。

思いっきり暴れてやる。

食い尽くしてやる。

そして、その場で、お前の良さをとことん言い尽くしてやるのだ。



そこまで言うと、彼は泣いていた。


とても静かに泣いていた。


つられて俺も泣いた。


涙が止まらなかった。


遠い地で、彼女はきっと、彼の帰りを待っている。

絶対に生きて帰らなければならない。


先に逝った、仲間がいる。

彼らを忘れないために、生きなければならない。



涙する彼を映す月は、とても綺麗だった。


悲しいぐらいに、綺麗だった。