「そんな素振りなんて見せなかったし、何かを相談して来ることもなかった。大学で生活しづらいのなら、インカレや俺との時間を生き甲斐というか、心地のいい安心できる場所と思えばよかったのにと思った。でもそう考えるよりも彼女の抱えていたものは重く大きなものだったんだ」


大学での自分と外の自分との相違に違和感を覚えてしまったのだろうか。


「俺は悔しかった。もしかしたら俺が気づいていなかっただけで、彼女はSOSをどこかで出していたのかもしれないと思った。人の気持ちを読み取ることができたら、こんなことは起きなかったんじゃないかって。だから俺は、もともと通っていた大学を卒業した後、また別の大学に通って心理学を学んだ」


その言葉に、初めて松村さんと会った日のことを思い出す。あの時『こころが泣いている』と言われた。彼は泣きそうな顔をしていたからと言っていたが、多分、本当に私の心を汲み取っていたのだろう。


「彼女が亡くなってから、妹の未央ちゃんとよく会うようになった。人は死んだら生きている人間の心の中でしか生きることはできないから、会って彼女の話をしたりする。もちろん、彼女が残した妹を守るためっていう理由もあるけどな」


それで二人は会っていたんだ。私なんかが入り込む隙もない固く結ばれた絆がそこにはあるんだ。


「…そして、お前に出会った」


ずっと前を向いていた松村さんがこちらを向いた。急に交わった視線に内心焦りながらも平静を装う。