時折すれ違うケバい女性やガラの悪そうな集団に『よっ』と声を交わす松村さんにギョッとしながらも、街の奥のそのまた奥を突き進む。


しばらく歩くとキラキラ光るネオンの数は減り、木々が生い茂る何とも自然的な場所に出た。


こんなところがあったなんて…と感慨にふけっていると、松村さんは急に立ち止まった。


「ぐへっ!」


その背中に思い切り追突し、後ろに少し跳ね返る。


「…しっかり前見てろよな」


それでも掛かる言葉は冷たい。


痛む鼻筋を撫でながら松村さんを見上げ、目で『酷い人だ』と訴えた。


すると松村さんは私の腕を掴み、自分に並ばせるように彼の横まで引っ張ってくる。


目の前に広がる景色に圧倒された。


「うわ…」


ここは…一体どこなのだろう。


少なくとも、私の知る街ではない。


大高原に差す夕日、ちょうど太陽が沈みかけている、いわば夕方と夜の境目。


ふっとなびく風に揺れる私の髪が視界を邪魔したので耳にかけた。


「ここ…は?」


隣に立つ松村さんにそう言う。


「俺の大切な場所。ここに来ると、心が洗われるんだ。建物ひとつ見えないこの景色を眺めているとな。悩んだり、何かに迷ったりした時、ここに来る」


景色から目を逸らさず、じっと前を見ながら言った。意外だと思った。


明らかに松村さんの見た目からは、このような自然の世界を好むとは想像つかない。


「松村さんでも、悩んだりするんですね」


「は?当たり前だろ?俺だってただの人間なんだよ」


心を見透かされ、普通とは違う人なのかなと思ったけれど、根本は私とは変わらないんだ。


そのことに安心感を覚えた。



「こっち来いよ」


そう言って連れてこられた場所は、大高原にぽつんと佇む大樹。


太い幹に支えられるように、ゆっくりと腰を下ろして身を預けた。


「お前に特別にこの場所を教えてやったんだ。だから、何かあったらここに来い。きっと解決するから」


「…あの、ひとつ聞いてもいいですか?」


返事をしない代わりにチラッと私を一瞥した。


それがOKのサインだと思い、そのまま言葉を続ける。


「松村さんって…何者なんですか?」


「言ったろ?ただのキャバクラのボーイだって」

「それは、そうなんですけど。心理学がどうのこうのとかよく言ってるじゃないですか?もしかして、心理学者か何かですか?」