『じゃあ明日、17時に店の前で待ってろ』


「え、お店?私場所知りません」


先程松村さんと会った場所は、廃墟ビルとホテルの間のところ。


お前知ってるだろ的なノリで言われるが、行ったことも見たこともないのだ。



『はぁ。お前名刺見ろよ。ちゃんと店の名前書いてあんだろ?さっき俺らが会った場所の並びにあるから、来い』


命令口調にキュンとする少女漫画パターンのリアクションになるわけでもなく、逆に少しムッとした。


「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか」


『あ??』


濁点がついたような発音に怯む。


「す、すみません…」


『とにかく明日、来いよ?じゃあな』


一方的に切られた電話。


ツーツーッと虚しい音だけが耳に響く。



携帯をゆっくり耳から離し、名刺に目をやる。


"ageha angel"


「アゲハ…エンジェル」


お店の名前を静かに呟く。


可愛らしい女の子がわんさかいそうな名前だ。



女の子…松村さんは、ここの誰かと特別な関係だったりするのかな?


そんなことを思いながら、名刺を財布にしまった。


そして通話履歴から松村さんの番号を電話帳に登録する。


明日17時、ageha angelに待ち合わせ。


授業は朝から3コマだけだから、そのまま向かおう。



明日の予定を脳内でぐるぐると繰り返しながら、その日の質素な生活を終えた。