俺が幻魔出現のタイミングに関係がある?
ギルが去った後、クラウスは苛々をぶつけるように訓練に励んだ。次々と打ち込んでくる新人騎士たちをなぎ倒し、「次!」、先ほどのドラゴンに劣らぬ大声を響かせる。
「……団長、ここんとこ寝不足で調子が悪いって聞いてたけど」
「これで、か? それじゃ本調子のときの訓練って……」
「ヤバいな」
「ああ、ヤバい」
「そこ! 私語は俺を倒してからにしろ!」
「はい! ……って、え?」
「俺たちに倒せるわけないだろ……」
「うるさい! やってみなきゃわからんだろうが!」
「はっ、はい!」
もう何が何だか、めちゃくちゃである。しかし、クラウスの頭の中はもっとめちゃくちゃであった。自分は懸命に任務に励んでいるというのに、その自分に原因があるようなことを言われては、それももっともであった。けれど、ギルの言ったことも、一概に間違っているとは言えなかった。
(王女の手を握った途端、あのドラゴンは出現した)
飛びかかってきた新人を、剣も使わずに当て身で吹き飛ばしてから、クラウスは考えた。
(それに俺が王女の警護を担当するようになってから、幻魔はどんどん強さを増している)
次の新人は剣の構え方がなっていない。これでは下段が隙だらけだ。その隙を突くように足をすくって転ばせる。
(初めの頃に出た幻魔は、それは可愛らしいような、王女のいたずらとでも呼ぶべきものだった。それなのになぜ……)
三番目の新人は、前の二人の惨状に思い詰めたのか、順番が来るなり捨て身で突進してくる。
(やっと少しは骨のあるやつがきたか……)
かわすか、それとも盾で一旦はじき飛ばすか――そう考えた刹那だった。ある考えが雷鳴の如くひらめき、クラウスは訓練も忘れ、その場に立ち尽くした。
「うわああああああ!」
目を閉じ、突っ込んでくる新人は、団長が構えを解いたことにも気付かない。
「団長、危ない!」
誰かが叫んだ。しかし、時既に遅く、新人の構えた剣はそのままクラウスの身体を貫いた――と、誰もがそう思った。
しかし、皆が思わず閉じた目を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「俺は、何てことを……」
つぶやいたのは、クラウスだった。それでは突進したはずの新人はどこか、というと、彼は床で完全に伸びている。唖然と皆が見守る中、クラウスは十歳も老け込んだような絶望的な表情をして、それからふらふらと歩き出した。
「団長? 大丈夫ですか……」
騎士の一人が声を掛けると、彼は地獄を見たような顔で振り向いた。
「いや、だめだ」
「ということは、いまの突進でどこかお怪我を……?」
「突進?」
しかし、クラウスは呆然としたまま首を振った。そして心配そうな騎士にこう言った。
「俺は……騎士団をやめて、この国を出る」
いままでありがとう、そう言うと、生身で剣をも跳ね返した無傷の騎士団長は、わけがわからずに固まった騎士たちをよそに、よろよろと訓練場をあとにした。
ギルが去った後、クラウスは苛々をぶつけるように訓練に励んだ。次々と打ち込んでくる新人騎士たちをなぎ倒し、「次!」、先ほどのドラゴンに劣らぬ大声を響かせる。
「……団長、ここんとこ寝不足で調子が悪いって聞いてたけど」
「これで、か? それじゃ本調子のときの訓練って……」
「ヤバいな」
「ああ、ヤバい」
「そこ! 私語は俺を倒してからにしろ!」
「はい! ……って、え?」
「俺たちに倒せるわけないだろ……」
「うるさい! やってみなきゃわからんだろうが!」
「はっ、はい!」
もう何が何だか、めちゃくちゃである。しかし、クラウスの頭の中はもっとめちゃくちゃであった。自分は懸命に任務に励んでいるというのに、その自分に原因があるようなことを言われては、それももっともであった。けれど、ギルの言ったことも、一概に間違っているとは言えなかった。
(王女の手を握った途端、あのドラゴンは出現した)
飛びかかってきた新人を、剣も使わずに当て身で吹き飛ばしてから、クラウスは考えた。
(それに俺が王女の警護を担当するようになってから、幻魔はどんどん強さを増している)
次の新人は剣の構え方がなっていない。これでは下段が隙だらけだ。その隙を突くように足をすくって転ばせる。
(初めの頃に出た幻魔は、それは可愛らしいような、王女のいたずらとでも呼ぶべきものだった。それなのになぜ……)
三番目の新人は、前の二人の惨状に思い詰めたのか、順番が来るなり捨て身で突進してくる。
(やっと少しは骨のあるやつがきたか……)
かわすか、それとも盾で一旦はじき飛ばすか――そう考えた刹那だった。ある考えが雷鳴の如くひらめき、クラウスは訓練も忘れ、その場に立ち尽くした。
「うわああああああ!」
目を閉じ、突っ込んでくる新人は、団長が構えを解いたことにも気付かない。
「団長、危ない!」
誰かが叫んだ。しかし、時既に遅く、新人の構えた剣はそのままクラウスの身体を貫いた――と、誰もがそう思った。
しかし、皆が思わず閉じた目を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「俺は、何てことを……」
つぶやいたのは、クラウスだった。それでは突進したはずの新人はどこか、というと、彼は床で完全に伸びている。唖然と皆が見守る中、クラウスは十歳も老け込んだような絶望的な表情をして、それからふらふらと歩き出した。
「団長? 大丈夫ですか……」
騎士の一人が声を掛けると、彼は地獄を見たような顔で振り向いた。
「いや、だめだ」
「ということは、いまの突進でどこかお怪我を……?」
「突進?」
しかし、クラウスは呆然としたまま首を振った。そして心配そうな騎士にこう言った。
「俺は……騎士団をやめて、この国を出る」
いままでありがとう、そう言うと、生身で剣をも跳ね返した無傷の騎士団長は、わけがわからずに固まった騎士たちをよそに、よろよろと訓練場をあとにした。


