「あの、クラウス様」

 国王と大臣からのねぎらいを受け、会議室から退出したクラウスを、女性の声が飛び止めた。眉間にいっそう深く刻まれたしわをそのままに、彼が振り返ると、そこには頭に薄いヴェールを被った少女が立っていた。

 シャルロット王女だ。クラウスは慌ててひざまずく。ヴェールのせいでその表情はよくわからないが、彼女の声は不安げだった。

「あのう、お父様はなんて? 他の大臣からクラウス様が叱られたと聞いて……」

 とんでもない、しかしクラウスは首を振った。

「国王様は私をお叱りになってはおられません。どうか、ご心配なさらぬよう」
「で、でも、クラウス様は大事な会議で眠って仕舞われたのでしょう? 私の……その、私のせいで……」

 儚げにヴェールが揺れる。その下で、彼女はきっとあの大きく澄んだ瞳に涙を浮かべ、彼を見つめているに違いない。クラウスは彼女を安心させるようにうなずいた。

「居眠りは王女様のせいではなく、私の失態です。ですから、ご心配はいりません。なに、私は頑丈ですから、一晩や二晩の徹夜など、なんともありません――」
 答えながら、ふらっとめまいを感じる。ひざまずいた姿勢だというのにめまいとは、これは相当、きているようだ。

「大丈夫ですか!」

 王女が思わず、といったようにクラウスに手を差し伸べる。めまいのせいで思考もまともに働かなくなった彼は、つい、その手を掴んだ。そのときだった。

「グアァァァァァァ!」

 城中が震えるような轟音を響かせて、昨夜のドラゴンが現れた。

「何事じゃ!」

 驚いた国王とバッシュ大臣が会議室から飛び出してくる。そして、その巨大なドラゴンを見上げると、卒倒しそうに青くなった。

「お二人はそちらに避難なさって下さい! 王女様も、国王様と共に!」

 クラウスはそう叫ぶと、腰の剣を抜いた。昨夜、散々手こずった相手だ。弱点は知っている。徹夜明けの身体に活を入れ、彼はドラゴンめがけて飛びかかった。

「クラウス様……ごめんなさい」

 王女のか細い声が、ふと耳に聞こえた。