王女の夢より幻魔がいずる――国王より、そんな相談を受けたのは、クラウスが宮廷警護の任より外れ、騎士団長に任命された年の冬のことだった。

「幻魔、ですか」
「幻魔じゃ」

 重々しくうなずかれては、さらに問い返すことはできない。

 にしても、幻魔とはおとぎ話の類いでしかない単語ではある。彼の困惑を読み取ったのか、隣に控えていたバッシュ大臣が口を開いた。

「シャルロット王女は亡きお妃様の血を濃く継がれたのです。お妃様は幻と現実の狭間とも言われる、ウィザーランドのご出身。彼の地の者の中には、ときに幻を呼び出す力を備える者がおりますが、その一人がお妃様だったのです」
「はあ、あの噂の……」
「噂ではない。まあ、そちも見ればわかるだろうが……とにかく新しい宮廷警護の者では刃がたたんのだ。どうか秘密裏に請け負って欲しい」

 国王直々の頼みに、クラウスはもちろんうなずいた。しかし、それが連日連夜の戦いになるとは、さすがの彼も思っていなかったのである。