「それなら……すみませんが、お願いします」
「はい。じゃあ、中に入りましょうか。垣内さんが美味しいお茶を淹れて待っていてくれてますよ」
そういえば裏から戻ってきたのは小此木さんだけだったっけ。
一足先に垣内さんは中に入っていたんだ。
しかも、同じ使用人の私にお茶の準備まで……本当に良い人だなぁ。
小此木さんが手を引いてくれるのに合わせて私は橋から降りた。
「そういえば、さっき変わらないっておっしゃってませんでした?」
「……いや、鯉達が餌に勢いよく寄ってくるものだから」
「なるほど。確かにすごい勢いでしたね!」
あぁ、鯉達のことだったんだ。
一瞬、実はどこかで知り合ってたのかと思った。
それだと本当に失礼だし、良かった良かった。
内心ほっとしている私を、小此木さんは口元に変わらぬ笑みを浮かべてジッと見つめてきた。
「そうそう。ここは小此木家ですので、使用人達以外は皆、姓は小此木です。ですので、私のことは咲夜と呼んでいただけますか?」
「そう、ですよね!分かりました。では、咲夜様と」
「イヤです」
「はい?」
お呼びしますねと続く言葉よりも早く否を唱えられてしまった。



