「イギリスからの長旅大変だったでしょう?お荷物はすでにお部屋に運んでありますから、まずはゆっくりくつろがれては?」
「そうですね。……あの、実はお家に鯉がいるのは初めてで、餌とかあります?」
「ほほほ。餌ならば専用の麩(ふ)があるので、とってきましょう」
「えっ!いや、今じゃなくていいんです!餌とか決まってたら勝手に買ってきてあげるのまずいかなって思っただけなので!」
「ですが、咲夜様はすっかり餌を与える気になったようですな」
「……あれ!?」
小此木さんがいなくなった!?
辺りを見渡すと、お屋敷の裏へと回っていく小此木さんの姿があった。
垣内さんの言葉からすると、そっちに鯉の餌があるんだろう。
しばらくすると、垣内さんを呼ぶ小此木さんの声が聞こえてきた。
「やれやれ。やはり見つけられませなんだか。いつもは鯉なぞ見向きもされませんからなぁ」
「そうなんですか?」
「えぇ。あぁ見えてまだまだ子供のような方ですから、早く佐倉先生と仲良くなりたくて仕方ないんでしょう」
「垣内さーん!早くー!」
「はいはい。今参ります」
垣内さんはホホホと笑いながら小此木さんの声のする方へ歩いて行った。
私が興味を持ったから、小此木さんは普段しないことをしようとしてくれている。
これ以上ないくらいの歩み寄りに、胸にじんわりと温かいものが広がった。
それと同時に、新米同然だからとウジウジしていた自分が馬鹿らしくなった。
たとえ新米だろうとベテランだろうと自分は自分のできることをする。
よし!これから頑張ろう!!



