再会からそれは始まった。

5時ぴったりに出る俺を訝しげに秘書に松山はデスクから見上げる。

「たまには、松山も早く帰れよ。」

「はい。」

「じゃ。お先に。」

俺は足早に社長室を出る。

秘書の松山が、俺に好意を寄せている事は気が付いている。
でも、俺は絶対に仕事関係で恋愛感情を抱くのを良しとしない事も彼女は知っている。
そして、俺はそれをわかっていて秘書の仕事を超えて、彼女に自分のプライベートのスケジュールの管理まで任せている。
レストランの予約、ホテルの予約、誕生日のプレゼントさえ彼女に選ばせて用意させる。
そして、彼女は完璧にその仕事をこなし、いつだって俺がどんな女と付き合っているかも知っているのだ。

だから、今日こんな風に夜のスケジュールも告げず、さっさと帰る俺に不信感を抱くのも仕方がない。

まあ、たまにはゆっくり一人でフラリと出かけたい事もあるんだよ。
という言い訳でも頭の中で考えながら、上階の自分の仮住まいに足早に向かう。

スティーヴンが、ここに住めというから仕方なく今はここに住んでいるが、いつかここもフロアを空けて何かしら有効活用したいと考えている。
地に足がつかないようなこの雲の上の住まいは、俺はあんまり好きではない。
ビルが完成するまでは忙しいから便利な条件だが。

カードキーを照らして、玄関に入る。
花のニューバランスのスニーカーがある事を確認して、ホッとする。

リビングに入ると日が暮れる西陽が当たるソファにうずくまって、眠っている花がいた。
ちゃんと俺の用意した俺のスウェットをブカブカに着て、膝かけをかけて。

そっと横に腰掛けて、花の寝顔を見やる。
さて、どうしてくれよう。

今朝の行動には、自分でもビックリしている。
俺はいったいどうしたいんだ?

ふうっと小さくため息をつく。