再会からそれは始まった。

下に降りると、朝の早い業者は既に仕上げの内装工事を始めている。

「ご苦労様」

「やあ、お金持ちの社長さんも朝早いねー」

なんて、フロアで声をかけられることも日常になっていた。
コーヒーショップの担当はまだ出勤していないようだった。
無理もない。アメリカが本店の企業は時差があるから、始業は大体は遅い事は分かっている。

ふと中をのぞいてギョッとした。
人が倒れているかと思ったら、花がソファ席で眠っている。
昨日会った格好のままだ。
目の前にあるゲラを見て納得した。

ああ、、、そっか。
俺がこの間フロア会議でダメ出ししたやつか。納期ギリギリだったんだな。

俺は、ゲラをくまなくチェックをし、1つだけここの色味をシアン30にしたらどうだろう?と胸ポケットからボールペンを出して書き加える。

「花」

そう呼んでみるが、一向に起きる気配はない。
スースーと彼女の心地よい寝息が聞こえる。
俺は、そおっと彼女の柔らかな茶色のくせっ毛の髪の毛に触れる。

「ありがとう。」

多分、彼女もこのビルが出来上がるのを楽しみに、そして全力を尽くしてくれている。

「んん。」少しもぞもぞと花が動いて微笑む。 幸せな夢でも見てるんだろう。

俺は、慌ててその場を去る。

秘書の松山に電話をする。

「二階のコーヒーショップで寝ている娘がいるから、膝かけみたいな毛布になるようなもの持って行ってやって。」

「はい?」

「俺はあともうちょっと回って上に戻るから。頼むよ。」