再会からそれは始まった。

目の前の磯崎花は、十年たったとは思えないほど全く変わっていなかった。

少し栗色がかった髪の色。ショートカットのヘア。 
うっすらとそばかすがあって、小さなえくぼ。
俺を見るまっすぐなキレイな目。

俺より頭二つ分くらい背が低い。 フランス映画に出てくる少年みたいで、あいかわらず胸はぺちゃんこだ。
あの時は、高校の制服や体操着、テニス部のユニフォームしか見たことはなかったけれど、白いTシャツにボーイフレンドのジーンズを無造作に着こなしているのも彼女らしい。

ぽかんとして俺を見上げている顔は、タイムスリップしたかのように感じる。
磯崎花は、目をそらして

「え?ちょっと待って? 私と同い年のどんでん返しのドS社長って南くんってこと? え?え?」

「どんでん返しのどSって?」

花はあわてて首をふって
「いやいやいや。失礼しました。そうじゃなくて、変わったね。なんというかもう貫禄が。 昔から老けているとは思ってたけど。」

俺はムッとして
「あんたは、全然変わってないな。遠くからでもすぐわかった。」

「ははは。」
花は、また俺に対するあの苦手意識の苦笑いをして見上げる。
ああ、いろんな事を思い出すよ。

俺は、名刺を出して花に渡す。
「連絡して。今度、そのどんでん返しのお詫びはしよう。 じゃあ、あとはよろしく。」 
と金沢の肩をたたく。

秘書の松山は、いぶかしげに彼女を見ながら、後についてくる。
「どなたですか?」

俺は、笑って答える。
「高校の同級生。同じ図書委員だったな。」

「本当に?!」
新崎所長もびっくりして唖然とする。
「というか、あいつここの仕事していて、オーナーの名前ぐらいも調べておらんのか? けしからん。」
彼女の上司として、全くお恥ずかしい。失礼しました。と新崎所長は頭を下げる。

「彼女らしいじゃないですか? あの、ロゴとか紙媒体のデザインはほとんど彼女が?」

「そうです。 いやあね、才能はかってるんですが、デザイナー連中ってのはね、どうしても常識からはずれたとこで生きてるのばっかりで。 教育するのは本当に骨が折れますよ。」

「・・・・・・。」
こんな偶然ってあるんだな。
俺は、笑いがこみ上げてくるのを抑えるのにせいいっぱいだった。