「すっごく美味しいイタリアンがあるんですよー。」

金沢君は、そう言ってウキウキしている。
彼より、私の方が男らしいかも?って思う時がある。 いまどきの草食系男子、色白の整った顔。
もうちょっと頼りがいがありそうにみえれば、女の子にモテるんじゃないかな。

「じゃあ、お言葉に甘えて一番高級なパスタたのんじゃお! あ、このCセットのウニのパスタにしよ!」

運よく、二つカウンターがすぐ空いたので、私たちは並んでそこに座る。

「いいですよー。何気に僕、高収入ですから。こうみえて。」

「なんかむかつく。デザイナーは、下請けのまた下請け業者で、いじめられっぱなしですからね。デザートまでいっちゃる。」

金沢君は、急にため息をつく。

「え?それはダメ?」

「違いますよ。 あと1カ月でこんなふうに花さんとのやり取りがなくなると思うと寂しいんです。」

「あと、1カ月で解放されるのかーーってこっちは清々してます。ていうか、あとその1カ月っていうのが地獄だけど。」
おしぼりで顔を拭く。
「はー、きもちー」

金沢君はあきれた顔をして、私のその行動に指摘をする。
「それ、おっさんがすることでしょ?」

「だってノーメークだし。今回のも納期ギリギリで化粧なんてする暇なかったから。」

「だから彼氏に捨てられるんですよ。」

「うるさい。捨てられた原因をつくったのは君だ。 いや、君のボスか?」

金沢君はますますあきれた顔をして
「でも、、、」

「でも?」

「ノーメークでその肌の透明感はないです。しかも28って。」

ぎろっと金沢君をにらんでお冷に口をつける。

「それって、ほめてんの?けなしてんの?」

「ほめてるんですよ。」

「あ、そう。それはどうも。」

「花さん。」

「ん?」

「僕と付き合いません?僕たち意外とお似合いだと思うんですよ。」

「は?」 そしてお水が一気に気道へ。 はげしく咳き込む私。げほっげほっ!

「大丈夫ですか?」 あわてて金沢君が私の背中をさする。
周りのお客さんが何事かとこちらをちらちらと見ているではないか。

「たのむから水飲んでるときに、そういう冗談言うのやめてよ。」

「冗談じゃないですよ。僕は本気です。」