「降りますっ」


すでに開け放たれていたドアから転がり落ちるように外へ出た。

真冬の夜は恐ろしいほどに寒くて、ショートパンツを穿いてきたことを心の底から後悔した。


「じゃ、おやすみ」


ありがとうございましたも、おやすみなさいも、なんにも言えなかった。


ドアがバタンと閉まる。

わたしたちを隔てる透明のむこう側で、彼はずっと微笑んでいる。


“送りオオカミ”しなくて、ほんとにいいの?

帰っちゃうよ?

わたし、もう家入っちゃうよ?


皆川さんが小さくうなずいた。
早く行って、と言うみたいに。

心のなかを覗かれたのかと思ってめちゃめちゃに焦ってしまった。


ねえ、ほんとうに?

ほんとうにいいの?


じゃあ、なんのためにわたしを送ってくれたの?


「もしかしてほんとに心配してくれてたの……?」


家に入るなり玄関にずるずると座りこんでしまった。

寒いし、床は超絶冷たくて最悪だったけど、なぜか脚に力が入ってくれなくて本当に参った。


ずっと握りしめていたままの右の手のひらをゆっくりほどく。

ころんとキャンディが顔を出す。


かさり、キャンディじゃないなにかが音を立てる。

それはとても小さなメモ用紙だった。


11桁の数字。

すごく、几帳面な字。


090から始まる数字の羅列がいったいなにかわからないほど、わたしだってガキンチョじゃないんだよ。


「なにこれ。なに、あの人……」