「あんな時間をくれてありがとう。もう二度とできないと思ってた過去を清算する貴重な機会を、きみがくれた。背中を押してくれてありがとう。

――だから、俺はきみを愛せずにいられないんだ」


ぼとぼと、ぼとぼと、

せっかく普段よりきれいにしてもらったメイクを、とめどなく流れる涙が容赦なく落としていく。


びしょびしょの顔のままで首に抱きついたわたしを、彼の両腕がしっかりと受け止めてくれた。


真っ赤な花びらがひらひらと舞う。

だけどそんなことは気にしていられない。


「……もう好きじゃないってきっぱりふられたから、情けない大人の俺は、しばらくどうにも踏ん切りがつかなかったんだけど」


あんなのぜんぶ嘘に決まっているのに。

どうしていつも、こういう肝心なときに限って、鈍感男の典型みたいな解釈をしちゃうわけ。


「でも、言われた通り、もう理性は捨てようと思って」

「……うん……っ」

「こんなに時間がかかってごめん。……ずっと、会いたかった」


腰にまわされている手にぎゅうっと力が入る。

ちょっと痛い。
力加減がなっていない。


でも、本当はずっと、こんなふうに、なりふりかまわずに、抱きしめてほしかった。


「まだ俺は情けない大人だし、もしかしたら一生このままかもしれないんだけど。でも、だからこそ……傍にいてほしい」


首を横に振る理由なんかひとつも思い浮かばなかった。

だからかわりに、首に顔をうずめてうなずいた。


ひょっとしたら、顔に塗ってあるいろんな色を、シャツの襟元につけてしまったかも。