本当は、もっと怒ってくれてもぜんぜんよかった。
ふざけんな、そいつ誰だよ、とか言ったりして。
強引に押し倒したりして。
それからそれから……と少女漫画みたいな展開を妄想していたら、へちゃけた気持ち悪い顔が鏡に映っているのが目に入って、とつぜん我に返る。
そうだよね、
決してそういう乱暴で強引なことをしない人だから、わたしは好きになったんだ。
ないものねだり、したくなる瞬間もたまにあるけど、
理性なんか捨ててぜんぶ奪ってほしい、とか思う瞬間もあるけど、
絶対にそうはしない彼だから、わたしはこんなにも好きなんだ。
ところで、ね。
わたし、起きてからずっと俊明さんのことしか考えてなくない?
「こっ……こわい、自分がこわい……」
いつもならせっせとスキンケアに勤しんだり、ストレッチしたり、通販サイトで服やコスメを漁ったりするスキマ時間。
男のことしか考えてないって、わたしなかなか、けっこうキてるよ。
それでも、やっぱり、こんなふうに思えることさえ幸せだなって。
誰かに、こんなにも強烈に、全部をかけて恋する日がくるなんて、ちょっと前までは想像すらできなかったから。
うれしいよ。
自分のなかにいた新しい自分に出会えることが、すごく幸福でかけがえのないことなんだって、彼のおかげで知ることができた。



