謎の敗北感みたいなものに襲われながらメニューを考える。
といっても、ひとりで献立を考えるのは至難のわざなので、お料理アプリのクックピット先生に頼らせていただく。
野菜、お肉、調味料、エトセトラ、
これだけ揃っていたら、載っているだいたいのものができそうだ。
そう思いながら献立ランキングを上から見ていたら、ふとドリアが目に留まって、いきなり無性に食べたくなってしまった。
けっきょく自分の食べたいものかよ、とセルフツッコミしたあとで、でも俊明さんは絶対に文句言わないもんな、と思い直す。
ていうか。
なにを食べたいのか聞いたところで、彼は「杏鈴ちゃんの好きなものでいいよ」と、絶対的に言うはずだから。
それが嫌だってわけじゃないけど。
むしろすごく、好きなところなんだけど。
でも、食べたいもの、好物とか、言ってほしい気持ちもある。
女子は、大好きな人の好きなものを作りたいと思う、複雑な乙女心を持っているんだよ。
「きーめた。ドリアにしよ」
つぶやいたと同時にテーブルの上に置きっぱなしのスマホが短く震えた。
通知バナーには彼の名前が表示されている。
『頑張って早く帰る。』
「もーなんなの! なにこれ! かわいい、ずるい、ほんとむり……」
ひとりごとみたいにぶつぶつ言いながら、今度は投げキスじゃなく、むちゅーと画面いっぱいのキス顔のスタンプを送っておいた。



