「あ……」
やっと理解する。
彼は、わたしが雪夜と自分のあいだで揺れている、と解釈したのかもしれない。
自分とつきあっているけど、ほかの男の子にキスされて、気持ちが揺らいでしまったのかって。
たぶん、そう言われているのかも。
いつも人一倍敏感で、察しがよすぎるくらいな人なのに。
どうしてたまにこんなふうな、鈍感男の典型みたいな思考回路をするわけ?
「ちっ、ちがうよ、ちがう、ちがうの」
「うん?」
「相手のコに気持ちがあるわけじゃない。ぜんぜん……ほんとに、むしろわたしが好きなのは俊明さんだけだって痛いくらいに思い知らされた、よ」
しゃべりながらもなお、ひっきりなしにぽろぽろ落ちてくる涙を、彼の親指がすくい上げた。
「でも……だって、いやじゃない?」
「なにが?」
「だってほかの男の子にチューされたんだよ、触られちゃった、わたしは、もし不本意だったとしても、俊明さんがほかの女の子とチューしたらって考えるだけで、死にそうに苦しいよ、ぜったいに嫌だもん」
ああ、そうか、と。
少し上にある顔が咀嚼するみたいにうなずく。
「嫌か、嫌じゃないかの2択だったら、そりゃ嫌だよ」
もういちど、大きな手がわたしの頬を包みこんでくれる。
「大事なコが、俺の知らないとこでほかの誰かに傷つけられてるんだから。それで平気でいられるほど、冷たいやつじゃない」



