「そのコに、好きだって言われた。むりやりキスされて……」
思い出す。
ついさっきされたみたいに、鮮明によみがえってくる。
本当に、
本当に、嫌だった。
叶うならすべてなかったことにしてしまいたい。
でも、それは、わたしにとって雪夜が本当に大切な存在だから、そう思うんだよ。
どうでもいいような人にキスされてもこんなに混乱しないはずだ。
その証拠に、いままでされてきた告白は全部なんでもない気持ちで断ってきた。
キスされても同じだったのかと言われると、それはちょっとむずかしいけど。
でも、やっぱり、相手が雪夜だったから。
びっくりしたし、ショックだったし、本当に嫌だった。
わたしが雪夜とのあいだに築き上げてきたすべて、一瞬で壊れてしまった気がした。
「……そうか」
彼はわたしを腕に抱えたまま、ひとりごとみたいにつぶやいた。
はっとする。
心臓がばくばくした。
もう、ふられちゃうかも。
ほかの男に簡単にキスされるような女、無理って、言われちゃうかも。
「それで、気持ちがわからなくなった?」
はじめ、なにを言われているのかわからなくて、黙っていたら両の頬をふわりと包みこまれた。
彼の顔が目の前にある。
少しだけ、困ったような表情をしている。



