なにか、獰猛な獣に、噛みつかれたのかと思った。


「……っん……!?」


なにを、されているの。


信じらんない。

信じらんない。


信じらんない……!


「やめ……っ、」

「……むかつくんだよ」


顔を逸らそうにも、見た目よりずっと強い右手で、乱暴に顎を掴まれていて、できない。

左手に手首を押さえつけられているから、ぜんぜん、逃げられない。


雪夜はまったく優しさのかけらもない、ひどいキスをくり返した。

わけもわからないまま、されるがまま、わたしは泣いた。


本当に、最低だ。


「……やだ……ゆきや、やめて……お願い」

「――っ、ふざけんな、おまえが」


わたしのほうがふたつも年上なのに。

制服を着た男の子にこんなことをされて、震えながら泣くしかできないなんて。


雪夜は体を離すと、とても冷たい、それでいて、とても悲痛な目で、わたしを見下ろした。


「おまえだけは、おれの顔がどうとか、死んでも口にするな」


その表情に、幼いころ泣いてばかりいた雪夜の悲しいそれが、どうにも重なって見えたんだ。