「あ、そうだ、最後にひとつ。杏鈴ね、かなり顔に出るから気をつけたほうがいいよ」
ぜんぜん痛くないデコピン。
じゃあお疲れ、と出ていったいけちゃんを、おでこをさすりながら見送り終えたタイミングで、リビングに置いてあるスマホがぶるぶる震えはじめたのだった。
彼かなあ、と思いつつ、ちゃんと画面を見ないまま通話ボタンをタップする。
あとで電話してもいい?
って、さっきメッセージのやり取りの途中で聞いたんだ。
わたしからそう言っても、彼は、自分のほうから電話をかけてくれる人だ。
「はーい、もしもし」
「あっ、アンちゃん? お疲れ、もう家?」
彼だと思ってちょっとだけ甘めの声で一言目を発してしまったこと、けっこう後悔した。
着信の相手はしっかり確認するべきだな。
とはいえ、受話器のむこう側にいるリアはそんなこと気にも留めていない様子で、少し興奮したように言葉を続けた。
「男子高校生ミスターコン、動向見てる?」
「え? なに?」
「ゆっきーがエントリーしてる」
「え?」
あんまり突然の話題で、いったいリアがなにをしゃべっているのかわからない。
「だから、ゆっきー! 国茂雪夜! しかも当たり前のように審査バンバン通ってってるじゃん!」
うなじのキスマークとか、いけちゃんの忠告とか、いっきにぜーんぶ吹っ飛んだ。



