「さっきから熱心にやり取りしてるのは、キスマークをつけた彼……でいいのかしらね」
「へあ!?」
いつものように部屋まで送ってくれたいけちゃんが、スケジュールの確認をしたあと、いきなり爆弾発言をした。
座り慣れたソファに沈みかけていた体が、弾かれるように地上に戻っていく。
わたしって本当にばか。
これじゃ、図星なのがバレバレだ。
「撮影中は完璧に隠れてたけどね、さすがにもううっすら見えてるから。髪、すぐに下ろしとくんだったね」
「あ……う……」
「相手は誰なの?」
言いあぐねて口をつぐんだわたしに、いけちゃんは、お姉ちゃんじゃなくマネージャーさんの表情をした。
「杏鈴はウチの大切なタレントなの。そしてわたしは、あなたのマネージャーなの。その意味が、ちゃんとわかるね。もう子どもじゃないんだから」
ぜったい敵わない。
堪忍してその名を告げると、いけちゃんは意外そうに目を見張った。
「なんかすごいいろいろと驚き」
そう言ったいけちゃんは、もうマネージャーさんじゃなく、お姉ちゃんの顔に戻っていた。
「皆川さんね、11月のMV撮影のとき、チラッとお話したんだけど、とても杏鈴みたいなコに引っかかりそうな人には見えなかったんだけど……」
「ちょっと、それってどういう意味! わたしが彼を引っかけたんじゃなくて、彼がわたしを引っかけたのっ」
「だからそれが意外なんだって。あんまり杏鈴を選びそうな感じしなかったから」
さっきからずけずけと、人が傷つくようなことを平気で言う。



