✧︎*。


「あ……杏鈴ちゃん、これ……」


なぜ、こういうときに限ってアップスタイルのヘアアレンジなのか。


ぐい、とブラシで持ち上げられたココアブラウンの髪。

ブリーチしておもいきり好きな色を入れることもあるけど、冬は暗めに落ち着かせるのが好み。


数秒のあいだフリーズしていた、おなじみのヘアメイクのゆんぴが、フローラル系の香水のにおいを漂わせながらそっと耳元にくちびるを寄せてきた。

くすぐったい。


「めちゃめちゃキスマークついてますよ……!」

「えっ!?」


思わず、がばっとふり返る。

ゆんぴが右の人差し指でわたしのうなじをつつく。

今度は逆回りに、がばっとふり返った。


「けっこうくっきりですヨ」


アイシャドウがよく映える奥ぶたえを、弧の形に変えてにんまりと笑った。


「まさか杏鈴ちゃんがこんなのつけてくるなんて……」

「ちょ、ちょっと、ちょ」

御池(みいけ)さんと、上月さんには黙っておきますから。だいじょーぶですよん!」


いけちゃんとママにだけはぜったい内緒にしてて!

と、言いかけたの、どうやらお見通しだったみたい。


「とりあえずきょうはコンシーラーで隠しときますね」

「あ、う……ありがとう……恥ずかしい……」

「けっこう、独占欲強めの彼です?」

「……いいえ、独占欲とは対極にいるような彼です……」


そして、ぬるっと彼氏できました宣言をしてしまった。


ちょっと天然なゆんぴは、その性格に似合わないような素晴らしい手さばきでわたしの髪をゆるいアップにしながら、少女のように頬をほころばせた。

3つ年上には見えない、かわいい女の子。