「俊明さんって自分から告白したことある?」
お風呂も歯磨きもぜんぶ済ませて、ベッドに横になりながら訊ねると、分厚いレンズに守られている瞳があきれたように揺れた。
「ほんと、すぐ昔の話聞きたがるよな」
「ほんと、昔の話になるとすぐ誤魔化しに入るよね」
「なかなか俺の扱いに慣れてきたね」
自分のこと、他人事みたいなニュアンスをもって話すことがあるね。
こういうところが掴めないんだよなあと、最近は冷静に分析すらできるようになった。
「ないよ」
最初の質問の答えを、彼は眼鏡を外しながら簡単に言った。
「じゃあ……自分からふったことは?」
なんとなく、まさかと思って訊ねた。
案の定、彼は首を縦に振った。
それは、わざわざ思い出す作業なんかしなくとも、すぐに答えを導きだせるみたいな動き。
「ない」
「見事に、来る者拒まず、去る者追わず、なんだね」
「そう言われるとけっこう聞こえがよくないな」
そりゃ、わざといじわるな言い方をしているんだもん。
「そのなかで本気で好きになった女の人、いた?」
いつも本気だよ、とか。
いま隣にいるよ、とか。
またてきとうなこと言って逃げるつもりなんだろうなって、勝手に想像していたけど。
少し目を伏せて、思い出の蓋を開けるみたいに、本当に噛みしめるように、彼は小さくうなずいた。
「いたよ」



