彼がいっしょに食べようと言ったので、パウンドケーキは二等分しておいしくいただいた。
コーヒー味にもコーヒーを合わせるあたり、カフェイン中毒なのかと思う。
苦味が好きなんだって。
甘党、辛党、すっぱい党、あたりは聞いたことがあるけど、“苦党”なんて人はこれまでに見たことがない。
コーヒーも、深煎りが好きらしい。
「きょうも泊まっていく?」
わたしが成人するまで抱かない宣言をした張本人が、そんなことを軽く言うのはすごいことだよ。
きょうもきっと平和な夜になるんだろうな、
と思いつつ、うれしすぎる提案を断る理由なんてひとつも思い浮かばなかった。
「いいの?」
「いいよ。あした仕事だっけ?」
「うん、お昼から……」
「送っていくよ」
「予定ないの?」
「俺も夕方から仕事」
じゃあ朝はゆっくりできそうだ。
シーツのなかでダラダラしながら、彼の作ってくれる朝ごはんのにおいに包まれて、ふにゃふにゃ二度寝する時間が好き。
ここに泊まることを始めた最初の数回は、緊張と使命感でそれどころじゃなかったのだけど。
ゆっくり寝てていいよ、という魔法の呪文を聞いているうちに、いつのまにかわたしのほうもそれに甘えるようになってしまった。
まだおつきあいを始めて2か月と経たないのに。
彼は女をダメにする男だと思う。
ぜったいそうだと思う。
これまでの人とは、どんな理由でお別れをしてきたんだろう。
どういうきっかけで、おつきあいを始めてきたんだろう。



