彼は少し驚いたような顔をして、人差し指だけでわたしの前髪に触れた。
くすりと、小さく笑う。
「食べないでね、じゃないんだ?」
「うっ……いまビミョーな気持ちだからゆらゆらさせないで……」
今度はもうすこしだけ大きな声で笑うと、彼はラッピングのリボンをそっとほどいたのだった。
「手作り?」
「うん。あのね、季沙さんといっしょに作ったの」
「え、季沙?」
本当のことを言ったら、もしかしたら怒られてしまうかもしれない。
勝手なことをしてしまったと、少しくらいは反省しているんだ。
「季沙さんだけじゃなくて……あと、みちるさんと、蒼依さんと」
彼はますます驚いた顔をして「面識あったんだっけ?」と首をかしげた。
「ううん、こないだ、これ作ったとき、はじめて会ったよ。燈ちゃんとも」
「そうだったんだ。ぜんぜん知らなかったな」
「……怒ってる?」
「なんで怒るの?」
「だって、内緒で会ったりして……」
そんなことで怒らないよ、
と言い残したかと思えば、カウンターキッチンの向こう側へ行ってしまう。
自分用のインスタントコーヒーと、わたしの好きなストレートティーをいれてくれている。
切り分け済みのパウンドケーキをお皿に移している途中、その隣に移動して腰にむぎゅりと抱きつくと、フォークで刺したスポンジを目の前に差しだされた。
ぱくりとかぶりつく。
すごくおいしい。
これはわたしじゃなく、間違いなしに、季沙さんのお手柄。



