「あの、彼はみなさんにもけっこう秘密主義……みたいなとこ、あるんですか?」
なんとなく聞いてみただけなのに、なんか微妙な顔をされてしまった。
特に季沙さんとみちるさんは、なぜかわざわざコーヒーカップを置いて顔を見合わせている。
「トシくんのことは、こうちゃんでさえそう言うんだよ。よくわかんない、聞くまでなにも言ってくれないし、って」
「笑ってごまかす世界選手権があったら間違いなく天下取れるんじゃない?」
おどけたように言ったみちるさんが、信じられない言葉を続けた。
「だってトシくんの彼女ちゃん、杏鈴ちゃん以外に知らないよ、少なくともあたしはね」
こんなにおいしいテリーヌの味が一瞬でどこかへ吹き飛んでしまった。
「ほんとに隠したがるよね。本人的には隠してるつもりないんだろうけどさ。でも、だからほんとにびっくりしたんだよ、季沙から杏鈴ちゃんのこと聞いたときは」
「ねー」と、すっかり仲良しのお姉さん3人はそれぞれ視線を合わせながら、困ったように首をかしげた。
もしかしたら、彼的にはただの事故だったのかもしれない、と、思った。
あの日、たまたまテーマパークで、瀬名さん夫婦に会ってしまったから。
だから、不可抗力みたいにしてバレちゃって、結局つきあうことにもなったし、わたしの存在を隠せなかっただけで。
あれがなければきっと彼は、ここにいる誰にも、バンドのメンバーにも、わたしの存在を明るみにはしなかったんじゃないかな。
なんとなく、そう思う。
でも、本当に、そう思う。



