「ごめんね、杏鈴ちゃん、あれ、ウチの娘でね、燈っていうの」
……“あかる”?
「子ども苦手じゃなかったら、よかったらかまってやって」
「……あの、すみません」
「うん?」
「初対面でこんな不躾なことをお聞きするのはものすごく失礼だと思うんですが……!」
きっと美人にしかできない、シンプルなアイメイク。
パキッとした色があしらわれているからか、とても強い印象のあるその目元が、少し戸惑ったように揺れた。
「いつかの飲み会……わたしと、それから岩佐リアと、皆さんで、お食事会みたいなことさせていただいた夜。あの、もしかして……みちるさんと、燈ちゃんと……俊明さんと、3人でテレビ電話しましたか……?」
もうめちゃめちゃに恥ずかしかった。
穴があったら入りたいし、穴がないのなら自ら掘って頭を突っこみたいくらいの羞恥。
みちるさんは少し怪訝そうに眉をひそめ、記憶をたどるみたいに瞳を左右に動かした。
育児で忙しい毎日、もしかしたらそんな夜のささいな出来事など、覚えていないかもしれない。
しかし、彼女はやがて合点がいったように「ああ」と声を上げ、こくり、こくりと、何度かうなずいたのだった。
「うんうん、してた! どんだけ彰人に鬼電しても繋がんなくて、そう、トシくんに電話した気がする! あんた一児の父親なんだからそろそろ帰ってこいって、トシくんに催促してもらったんだ。あのときは水差すようなことしちゃってごめんね」



