パーフェクト・インパーフェクト



「トシくんとヒロくんはあんまり甘いものが好きではないとの情報をいただいているので、きょうはコーヒー風味のパウンドケーキを作りたいと思います」


お料理教室の先生のように、アイランドキッチンのむこう側で材料をならべながら、季沙さんが歌うように言った。

お菓子作るのがすごく好きなんだって、そのすべてから伝わってくる。


“好き”を仕事にしている人は本当に素敵だ。

そして、それがもともとは好きな人のために始めたことだったなんて、これ以上に幸せなことはきっとほかにない。


「せっかくだから、楽しくおしゃべりしつつゆっくり作ろ!」


ふたりははじめましてだし、
と、交互に顔を見られながら言われて、ちょっと恥ずかしかった。


実はもともとけっこう人見知りなのである。

お仕事の場以外だと、それをかなり発揮しちゃう。


あおいさんも同じなのか、えへへ、と照れた感じの笑いをこっちに向けてくれた。


豆乳とインスタントコーヒーをボウルで混ぜながら、バターと砂糖を白っぽくなるまで混ぜながら、そこに卵を入れて混ぜながら、コーヒーを入れて混ぜながら、とにかく一生懸命混ぜ混ぜしながら、3人でいろんな話をした。


来月に大学を卒業する蒼依さんは、4月からCAさんとして働くことが決まっているらしい。

なるほど、だからこんなにもすらっと美しく、ちょっとクールで知的な雰囲気なのかと、妙に腑に落ちる。


ちなみに、弟さん……寛人さんとは中学のころの同級生で、東京に出てきて再会したのが、つきあい始めたきっかけだとか。