それから、ふたりでいっしょにお布団に入った。

まるごと包みこむように抱きしめてくれる両腕に、甘えて体をあずける。


すぐ傍に心臓があって、とくん、とくん、やさしく動いているのが聴こえた。

生きている音、誰かの鼓動の音にこんなにも安心できるなんて、知らなかった。


静寂と暗闇のなかでいろんな話をした。

彼がめずらしくわたしについていろんなことを訊ねてくれたんだ。

お仕事のこと、友達のこと、それから、家族のこと。


「うちはママがスタイリストで、パパがね、お医者さんなの」

「え、医者?」

「そー。産婦人科医。開業はしてなくて病院勤めなんだけど」


だから後は継がなくて平気なのって伝えると、それはよかった、とちょっと笑った感じの返事。


「ね、おうちは……誰が継ぐの?」

「たぶん妹の婚約者だと思う」


彼は簡単に答えた。


「ほんと、妹には可哀想なことしたなと思うよ。まだ若いのに早々に医者の卵と婚約させられて」

「それってもしや政略結婚……?」

「どうだろう、いちおう医学部で出会った相手らしいけど。叔母から又聞きしてるだけだから詳しくは知らないんだ」


なんだかすごい世界だなあ、と思わず感心さえしてしまう。


彼はきっと本当にけっこういいところの育ちなんだ。

飲み会で言っていた『お城育ち』はたぶんダテじゃない。


そして、あれはこういう意味だったのかと、すこし切ない気持ちにもなった。