「いままで大事にしてきたんだろ」
「好きな人に……あげるために、大事にしてきたんです」
「ほんとに頑固だな。そんなにしたいの? こんなに震えてるのに」
「……震えてません」
「こんな状態のコに、たとえしてほしいって頼まれたとしてもできるわけないよ」
彼は少し笑った。
お腹がちっちゃく揺れる。
やわらかなフリースで隠されているこの素肌に触れたことのある人がいるのだと思うと、はじめてを経験する恐怖なんて、なんでもないことのようにさえ思えた。
「これまで……何人くらいの女の子と、してきたんですか?」
「そんなこと知りたいの?」
「はい。相手がどんな人だったのかとかも、ぜんぶ」
「知ったところでどうにもなんないよ」
「う……傾向と対策です」
このシングルベッドの上で彼に触れてもらった女性が、この世にどれくらい存在しているんだろう。
こんなふうに大事にしてもらった人が。
ぎゅっと抱き寄せてもらった人が。
わたし以外に、あと何人いるの?
「やだ……」
自分がこんなにも嫉妬深く、独占欲のかたまりみたいなやつだとは思わなかった。
「俊明さん、いままで……何人の女の人を好きになってきましたか」
胸に顔を押しつけながらもごもごと訊ねた。
ちゅっと、かわいい音を立てて耳元にくちびるが触れる。
こんなところにキスされるなんて思わなくて背中がぞわりとした。
「内緒」
ささやくように彼は言った。
ぜんぜん納得のいかない答えなのに、まるで沈められるように、わたしはそのまま眠りのなかに落っこちてしまった。
ほろ苦くて甘ったるい、なんだかとても不思議な夢を見たような気がする。



