「どうしたの?」
「もう……眠いです」
「シュークリーム食べない?」
「こんな時間に食べたらデブになっちゃいます」
そうか、と彼が笑う。
「じゃ、もう寝る?」
心臓がどっきーん!と跳ね上がるのがわかった。
押さえこむように背中に顔をうずめて、ゆっくり、一度だけうなずいた。
ずり、と頬に触れたネイビーのフリースは、外側から触っているだけであったかい。
「もし嫌だったら俺はソファで寝るけど」
今度はずりずりと顔を横に動かした。
「一緒に寝る?」
「……はい」
「それ、どういう意味かわかってる?」
ちゃんとわかってる。
いいの。
キスしたとき、わたしもう、このままどうなってもいいって思ったの。
「はい……」
それでも彼のお腹にまわしている手が、どうにもカタカタと震え始めた。
ぎゅうっと力をこめる。
だめ、ぜんぜん言うことをきいてくれない。
彼はなにも言わないでそっとわたしの腕をほどき、そしてふり向くと、子どもをあやすみたいに「歯みがきしよっか」と静かに笑った。
コンビニで買った歯ブラシで、口のなかがぶくぶくになるまで激しく磨いた。
ミントの香りで目までスースーする。
ここまできれいにしたら、大人のキスだって、怖気づくことなくきっとできるはずだよ。



