「じゃ、目、閉じて」 「え……ほんと、に?」 「してほしいって言ったのは杏鈴ちゃんだよ」 それは、そうだけど。 「でも、あの……どきどきして死にそうです」 彼はもうなにも言わなかった。 左の頬に大きな右手が触れる。 あったかい。 やさしい。 死んじゃいそうにどきどきするのに、信じられないくらい安心する。 なんかもう、どうなったっていいかも。 まだ少し涙の粒が残っているまぶたをゆっくり下ろした。 キスってぜんぜん甘酸っぱくない。 ただ、とてもやわらかくて、すごくあったかい。